March 08, 2006

[風の琴 ― I . 十二の肖像画による十二の物語] 第八話まで II 

先日もご紹介した辻邦生 氏の『風の琴』という
本を先ほど読み終わりました。何人かの方が
コメントでぜひ読んでみたい!と書いて下さい
ました。


  
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   風の琴―二十四の絵の物語    文春文庫
    辻 邦生 (著)

そこで、とても心に残った文章がいくつか
ありますので、それを書き残してみたいと
思います。一作一作が素晴しいのですが、
今回は、肖像画の第八話までを図版とともに
簡単に印象に残った部分をご紹介したい
と思いますので、ご一緒にお楽しみいただ
ければ幸いです(゚-^*)ノ 

まずは、作者が「あとがきで」書かれた所から。。。

絵画も音楽も文学も、その根底では同じ芸術的高揚が
あり、それがそれぞれの表現の様式的特徴に応じて、
絵画美、音楽美、文学的感動になると信じている。
つまり画家は色や形、音楽家は音色や旋律、文学者は
言葉や思想というものに独特の愛着と才能を持ち、
表現する段階では、必然的に、自分の得意とする表現
形態に向かっていきますが、表現へ駆り立てる陶酔的
衝動においては全く同質である。
絵からくる感銘を力の支えとして、作者が勝手に空想
した世界--それがここに集まった二十四の物語です。

そして、「物語のはじめに」から。。。

デューラーにせよ、レンブラントにせよ、肖像画は、
どんな風景や静物より、なま臭い人間のドラマを感じ
させる。それは果てしない闇との対話とさえ言っても
いいものだ。
十二枚の肖像画を選んで、それに物語をつける機会に
めぐまれた。次の物語が果たして<闇>を解読してい
るかどうかはわからないが、すくなくとも、<十二の
肖像画>が一人の小説家の心の中を通過した際に発した
共鳴音のごときものである、とは言えそうだ。
これらの物語は、いかなる歴史的事実、美術的背景
とも関連のない、純粋に作者のファンタジーから生みだ
されたものである。

I.  十二の肖像画による十二の物語

  第一の物語 鬱ぎ (ふさぎ)

  1 
   
 『ある男の肖像』
           ロヒール・ファン・デル・ウェイデン

   そのくせ妻はヨハネスを棄てきれなかった。
       彼の財産にも魅力があったが、それより
    何より、ヨハネスが都会の女たちのあいだで
       噂されるような、どこか官能的な容貌の持ち主
       だったからである。

  第二の物語 妬み (ねたみ)

  grand 老婆の肖像』(ラ・ヴェッキア)
                  ジョルジョーネ

   エリザベッタはそのとき、炎の揺れ動くなかに、
       炎とそっくりの恰好をした、金色の、奇妙な
       生き物をみたのであった。
         生き物?たぶん生き物であったのであろう、
       それは炎と同じように楽しげに薪の上で跳ね
       踊りながら、身をくねらせていたのだから---。

 第三の物語 恐れ

  2 『自画像』
                  ティツィアーノ

  「謎めいた絵ですが、魅惑的です」ジョバンニは
  息をつめるようにして言った。「それに先生のこの
   激しい筆触。先生の筆になると、ふだん見慣れた
   ものも特別なものに見えてきます。どうしてでしょうか」
    「たぶんわしがこの世を愛しているからだろう」老人は
   画筆を置くと、室内帽に手をやりながら、神経質に言った。

  第四の物語 疑い

  3 『ヤーコプ・ムッフェルの肖像』
                   アルブレヒト・デューラー

  ----妻の胸の青痣のことを、他の男に洩らすことが
  できるだろうか。
  その後、ヤーコブはマティルダを別の眼で眺める
  ようになった。----マティルダは、ヤーコプが市庁舎
  の仕事に没頭している間にいつか大輪の芍薬のように
  花盛りを迎えていたのだ。
   この女に刺青を施そうと思う男がいても不思議はない。

  第五の物語  奢り (おごり)
  
     4 『エラスムスの肖像』
                   ホルパイン

  男は古書籍の行商人であった。ボローニャを
    振り出しにパリ、ストラスブール、ヴォルムスと
    渡り歩いて、ロッテルダムに着いたという。ちょっと
    狡そうな感じの、頭の禿げた小男であった。先生は
    忙しいときでも本となると目がなかった。---商人は、
    たっての願いだが、一冊秘蔵の大型本を先生のもと
    で保管していただけないか、といった。
    --- 「何語でかかれているのかね」
  「シリア語です」「何についでだね?」「悪魔についてです」

第六の物語   偽り

  rembrant 『黄金の兜の罪』
                  レンブラント

 
  クリスティナはいつも伏眼がちの、慎ましい女であった。
  髪を後でひっつめにしたために広く見える額の下に、青い
  利口そうな眼が微笑みを浮かべていた。ゴトフリートは
  一目でこのクリスティナに恋情を覚えたのであった。
  もちろんトマスの手前、彼はそれは誰にも打ち明ける
  ことはなかったが----

    第七の物語  謀み (たくらみ)

  horse  『婦人の肖像』
                 ポライウォーロ

   田舎の厩舎では、案じ顔のエンリコが待っていた。
 「どうなさいました?まさかご病気では?」
 「病気のほうがどれほどましか分かりません。あなたに
 言うわけには参りませんが、私は大変な苦しみを受け
 ているのです」
 エンリコは、ポリーナにそう言われると、気圧されたように
  黙ったが、しかし晴れやかな眼が艶を失い、明るい微笑が
  消えているのをみると、思わず、今の身分を忘れて叫んだ。

  第八の物語  驕り (おごり)
   
     buronchino 『ラウラ・パッティフェルリの肖像』
                   プロンツィーノ

    「この都会(まち)の人たちはあなたがただいい詩を
   書きたいばかりに、男たちをつぎつぎに弄んでいると
   言っているではありませんか。ぼくの友人だちは、
   ぼくが、あなたに単に霊感を与える存在にすぎないのだ
   と噂しあっているのです。私の不実を責めるなら、その
   詩とやらのため、男あさりをするあなたご自身の浮気を
  まず責めたらどうですか」

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March 01, 2006

[風の琴―二十四の絵の物語] 辻 邦生 (著)

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    風の琴―二十四の絵の物語    文春文庫
   辻 邦生 (著)

  会社のT氏にまた素晴しい本を貸して頂きました。
 
 
    内容(「BOOK」データベースより)
  ブリューゲル、レンブラント、セザンヌ…。西洋美術史
    をキラ星のごとく飾る24の名画。その色と形が呼び
    起こす感興を、同じ強度のまま、短篇小説で再現すると
    どうなるか? 2つの芸術ジャンルの間で白熱する感動の
    変電実験。こうして炉辺の語りの楽しさを堪能させる24
    の物語が生まれた。巻末に作者による図版解説を付す。

  24枚の絵から辻氏が想像して短編の物語を書かれて
    います。そのお話がすごい!!文章も大変洗練され
    図版もまた選び抜かれたようにきれいなので、一話一話
    が宝石のように輝いていて、文庫本なんてもったいないです。
    まるで、短編映画を観ているような夢の世界をしばし堪能
    できます。人間の内面をここまで現実と夢幻の世界と分けて
    鋭く抉り出していく辻氏の想像力と人間の心理を分析する
    手腕に陶酔することができました。まだ、全部は読んでおり
    ませんが、簡単に抜粋してみます。また、それぞれのお話
    と関連する拙い拙記事へとリンクも追記してみました。
   よろしかったらご覧下さいませ。

I.  十二の肖像画による十二の物語

  第六の物語 偽り

  rembrant 『黄金の兜の罪』
                  レンブラント

   
    レンブラントの光と影を人間の内面に焦点を
    あて、主人公が上官の奥さんを恋してしまった
    故の幻?をみて、上官を戦死させてしまう・・・
    恋と戦乱の世界を妙意に描いて素晴しい!

    ☆「レンブラント・フェルメールの時代」小林頼子氏
   講演会 (拙関連記事)

  第七の物語  謀み (たくらみ)
  
    horse 『婦人の肖像』
                 ポライウォーロ

 
 乗馬を得意とする美女があまり幸せな
  結婚ができずにいましたが、白馬が彼女
  を救ってくれました・・・クール・サスペンス!
      

  第八の物語  驕り (おごり)
   
     buronchino『ラウラ・パッティフェルリの肖像』
                  プロンツィーノ

  ラウラはコシモ一世の宮廷でもペトラルカの詩を書く
    女流詩人としても有名でしたが、その詩を書くために
    気持ちを高揚させ続けるため、若い男性との恋を
    繰り返し、気持ちが覚めると次々と代えていきます。
    その冷淡さが最後には自分の身に起こることに・・
    すごい!!

    第十の物語  狂い

  leonald 『美しきフェロニエール』
                 レオナルド・ダ・ヴィンチ


    美しき美女を追いかけて、霞がかかった森の奥
    の古城まで追いかけて、彼女に結婚を申し込ん
    んだ若きアンドレアに襲う狂気の世界・・・!

  ☆ レオナルド・ダ・ヴィンチ (拙関連記事)

II. 十二の風景画への十二の旅

  第四の旅  氷の鏡  ある雪国の物語

  brugel 『雪の狩人』
                   ブリューゲル


    狩人が冬の季節はいやだいやだ、と言って
    冬山に入り雪の中で死にかけて、あの世に
    行ってみると季節も人々の表情もあまりなく
    この世の生活がいかに楽しいか目覚める!


    暗さの文化論 ブリューゲル(拙記事)

  第九の旅  霧の柩 森に囲まれたある沼の物語

  colo 『モルトフォンテーヌの思い出』
                    カミーユ・コロー

  少女と母親の持つ情愛と悲しい結末。。

  ☆『ふらんす 80年の回想―1925‐2005 』 (拙関連記事)
  ☆バルビゾン芸術の歴史と遺産 - 井出洋一郎氏
        講演会

 第十二の旅  馬(ペガサス)の翼  ある帰還の物語

   vermeer 『デルフトの眺め』
                  フェルメール

   魔術師が入り込んだ鏡の世界の謎・・・☆




  1992年5月の初版本ですが、図版の印刷が
   とても綺麗でした。こちらに掲載しているより
   も鮮明で美しいので、もし本屋さんで見かけ
   たらご覧になってみてくださいね~♪

   絵とお話が好きな方には超お薦めの一冊です!

   

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